メディアアート
教育における教材
ここまで、教育現場、美術館、文化庁メディア芸術祭におけるメディアアート についてみてきた。この章では、そのような流れも含め、もう一度「メディア アート教育」について考えたい。大学や大学院などの教育機関においてメディ アアート教育が2000年前後から積極的に取り入れ始められるようになり、山口 勝弘や松本俊夫などの映像作家が教員として迎えられ、多くのアーティストを 輩出するようになってきた。また美術館においては1988年に川崎市民ミュージ アムにおいてアニメーションの制作のワークショップを行っており、日本で最 初のメディアアート教育であると言える。また興味深いのは、先に述べたよう に1988年に美術館でメディアアート教育が既に行われていたにも関わらず、教 育の現場においては1999年に大阪芸術大学、芸術学部教授の花篤䔈氏の著書「メ ディア教育 異文化理解教育 映像教材およびガイドラインの開発」のなかで 美術教育における、メディア教育のガイドラインが示されたのが最初である。 美術館での取り組みに比べ約10年遅れをとっているのが分かる。文化庁メディ ア芸術祭も毎年来場者数、作品数ともに伸ばしており、まさにこれから沢山の メディアアート作家が増えていくことが予想できる。 こうした中で美術教育においても、今まさに「メディアアート教育」をより教 育現場に取り入れていくことを思案する時期にきているのではないだろうか。 教育指導要領においては、中学校の美術教育において具体的なメディアアート の授業案が記載されているが、美術教育がはじまる小学校から、このようなメ ディアアート教育を取り入れていくことが望ましいのではないかと考える。メ ディアアートの原点である「映像が動いてみえるしくみ」を小学校の図画工作 の授業で理解をし、中学における美術の授業ではより高度な技術を用いて制作 を行っていくことが望ましいのではないか。次の章では具体的なメディアアー ト教育を教育現場に取り入れていく方法についていくつか提案したいと思う。
美術館で行ったメディアアート教育プログラムの公開 川崎市民ミュージ
アムようにメディアアート教育を先行して行ってきた美術館 の教育プロ
グラムを映像資料、また方法論を簡単にテキスト化しウェブ上で公 開
する。沢山の教育プログラムを集めておき、小学校の図工の教員が
これを参 考に授業作りを実際に行ってみるというものだ。小学校に
おいてなかなかメデ ィアアート教育が取り入れられない原因の一つは実践例がまだ少ないというこ と、また教員自身がメディァアートの勉強をしておらず分からないというのが 大きいだろう。アーティストを輩出するような美術大学、大学院においてはメ ディアアート学科が増えてきているが,学芸大学のような教員養成系の美術学 科においてはメディアアートという名前の学科が未だ存在していないのが現状 である。川崎市民ミュージアムで行ったように実際に作家を招いて子どもと一 緒に作品を作るというのは、学校現場ではなかなか難しいだろう。しかし実際 に学校現場においても図工の授業に取り入れることがそれほど難しくない、実 践例もいくつかある。ここでは図工の授業でも取り入れることが可能ではない かと考えられる実践例を川崎市民ミュージアムの教育プログラムから紹介した い。 教育現場にメディアアート教育を取り入れていく方法案の二つ目は教材をつく るということだ。メディアアートの原点である「映像が動いてみえる仕組み」 を理解するためにゾートロープをつくる教材を作り、教材会社がこれを学校向 けに販売をする。例えば、スタジオジブリに協力を求めて、一緒にアニメーション教材開発を行い学校教育向けに販売する。このような大きな組織とコラボレーションすることで、メディア教育が注目し、今後より取り入れやすくなるのではないだろうか。
